十種神宝 中学国語の基礎・基本

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「シカの『落ち穂拾い』」5……この文章は「研究」といえるのだろうか。

生徒用の資料・解説はこちらのHPに載せてあります。
興味のある方はどうぞご覧下さい。

「シカの『落ち穂拾い』」の学習プリントを作成しました。
興味のある方はこちらへどうぞ。

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 説明的文章には、
 製品の取り扱い方を正しく読み手に伝えるための電化製品のマニュアルのような説明文から、
 筆者の頭の中にある考え(筆者の主張)を正確に読み手に伝える論説文まで、様々な種類があります。

 この「シカの『落ち穂拾い』―フィールドノートの記録から」は、
 研究論文といって、学術研究の成果を筋道立てて述べた文章です。

 実際、横書き二段組みに直すと、研究紀要に掲載される書式とそっくりになります。
 私は、そのように直したA4のプリントを作成し、それを教材としています。
 (欲しい方は、ご連絡ください。PDFでプレゼントします。)

 研究が研究であるためには、どのような条件が必要なのでしょう。
 私は、次の三つを備えていなくてはいけないと考えます。
  • 客観性・妥当性
  • 独創性・新規性
  • 一般性・普遍性
 更に、インパクトファクターが高いもの(評価の高い雑誌等に取り上げられたり、他の研究にたくさん引用されていたりするもの)ほど「良い研究」と評価されます。

 

 これは、「授業研究」や「研究授業」など、
 私たちの身の回りにある「研究」と名前のついたものはみんな同じだと信じています。

 

 さて、「研究」の条件をこのテキストは備えているのか
 生徒に考えさる授業が、単元最後の授業となります。

 まず、生徒に「『研究』であるための条件」を自由に意見を出させ、
 教師がそれをまとめて、上の3つの条件を説明するまでが導入となります。

〈学習問題〉
  • この文章は、研究と言えるだろうか。
客観性・妥当性の検証

 客観性・妥当性とは、
 研究の筋道が論理だっており、誰が読んでも正しい(間違いとは言えない)ことです。

 これまでの授業では、
 「考察」の結論部をスタートに、
 それを導き出した「仮説の検証」、
 その元となる「仮説」や、「仮説」を導き出した「観察からわかったこと」を検証してきました。

 その結果、「観察からわかったこと」から「考察」までの客観性・妥当性はあると考えられます。

〈学習課題1〉客観性・妥当性を主張するために、あと何があれば良いのか。

 

 答えは「もととなった観察があるという事実は、何によって証明されるか。」です。

 そのために「観察のきっかけ」の項があり、
 その中でフィールドノートの存在が示され、
 確実にそれがあることを証明するために、写真まで載せています。
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 「え、そんなこと必要なの?」と思うかもしれませんが、
 特に自然科学の研究の場合、これはとても大事なことなのです。

 小○方さんの「STAP細胞はあります」の騒動の例を思い出してもわかるように、
 フィールドノートのあるなしが、その研究の真正性を担保するものだからです。

 だから、このテキストの副題
  • フィールドノートの記録から
なのです。

 「フィールドノート」という言葉を発見させ、
 フィールドノートに研究の起点があることや、
 フィールドノートをデジタルでなく紙に書いて残す意味等を考えさせます。

 

独創性・新規性の検証

 独創性・新規性とは、
 その研究がオリジナルのものであり、今まで誰も主張したことがない新しい内容であるということです。

〈学習課題2〉この研究は独創的で、誰も主張したことがないものなのだろうか。

 この答えは「観察のきっかけ」に次のように書かれています。
  • その(「落ち穂拾い」の)詳細が検討されることは、これまであまりなかったようだ。
 この一文は、
 「『落ち穂拾い』についての細かな研究は、私が調べた限りでは、ありませんでした。」ということです。
 従って、「『落ち穂拾い』について研究したのは、私が初めてです。」という宣言です。

 「これまであまりなかったようだ」とは優しい言い回しですが、
 謙遜した言い方では「管見すると存在は確認できなかった」
 つまり、先行研究について詳細に調べましたが、発見できませんでした、という
 相当断定的な言い方になります。

 更に「考察」で
  • これまで、樹上で暮らすニホンザルと地上で暮らすニホンジカは、互いに無関係に暮らしていると考えられてきた。しかし、一連の調査によって、この二種の動物がつながりをもって暮らしていることがわかってきた。
と、ニホンジカを専門とする研究者がこう言い切っているのですから、
 シカの「落ち穂拾い」についてはほとんど知られておらず、
 この研究が最初である、と(すこしドヤ顔で)宣言しているわけです。

 

一般性・普遍性の検証

 一般性・普遍性とは、
 研究が特殊な条件でしかあてはまらない限定的なものではなく、いつでもどこでもそれがあてはまるものである、ということです。

 このテキストの結果だけでは、
 「シカにとってサルは、食物が乏しく栄養状態の悪い時期に、自力では獲得が難しい、しかも栄養価の高い食物をたくさん落としてくれる、ありがたい存在である」という結論に、一般性・普遍性をもたせることはできません。

 一般性や普遍性は、その方向や範囲をどこまで広げていくかがポイントです。

 では、何を研究すれば一般性・普遍性のある研究と言えるようになるのか
 生徒に考えさせてもよいでしょう。

〈学習課題3〉どういうことを研究していけば、一般性・普遍性をもたせることができるか。

 テキストには、
  • サルの行動がシカの生活に及ぼす影響の大きさがどの程度なのか
  • シカのほうがサルにあたえる影響について
を、今後「調べてみたい」としています。

 これは、テキストにある通り、シカの「落ち穂拾い」の実態の詳しい調査です。

 では、一般性・普遍性をもたせるためには、どんな研究をしたらよいのでしょう
  • シカがサルの「落ち穂拾い」をするのは、金華山だけか。岩手県ではどうか。日本中はどうか。世界ではどうか。
  • シカはニホンジカだけか。サルはニホンザルだけか。サルやシカの種類が違ってもいえるのか。
  • サル以外に、シカが「落ち穂拾い」をする動物はいないのか。
 これらを生徒に考えさせるのです。

 他に「シカが『落ち穂拾い』をする理由は、他にはないのか」という意見が出ると思います。
 これは「反証」といいます。
 仮説(結論)に適合しない事例は、その仮説の限界を示すことであり、その限界を超えない限り仮説は正しい、という証明となるものです。
 「よく気がついたね」と絶賛してあげましょう。

 この三つの学習課題は、一斉授業ではやりきれません。
 やはりここは、個人→グループ→全体発表というような、アクティブラーニングの形式で授業を進めるのがよいかと思います。

 

 「シカの『落ち穂拾い』―フィールドノートの記録から」というのは、
 取り扱いが難しく、軽くスルーしてしまいがちな教材だと思います。
 しかし、しっかり教材研究をして授業にのぞめば、それなりにやりがいのある授業ができると思います。

 がんばりましょう。

「シカの『落ち穂拾い』」の学習プリントを作成しました。
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