十種神宝 中学国語の基礎・基本

                           右下の検索で、教材名を入力してください。                           このブログで紹介した教材の学習プリントを販売します。 毎日の予習・復習や、定期テスト対策に使えるプリントです。 興味のある方はこちらをご覧下さい。https://kandakara.booth.pm/

キカイダーは本当に幸せになれたのだろうか

ダウンロード (3)©石ノ森章太郎東映
石ノ森章太郎のマンガ『人造人間キカイダー(テレビ版とはストーリーが違います)のお話です。

キカイダーは、光明寺博士が「絶対に殺されない自然警備隊員」として造られたロボットです。
研究を援助するプロフェッサー・ギルの企みに気づいた博士に、悪の命令に従わないための良心回路ジェミニィ……『ピノキオ』に出てくるコオロギの名前です)を埋め込まれました。
しかし、完成直前に光明寺博士がダークの襲撃を受けたため不完全なままの良心回路を持って誕生しました。

人間の姿の時の名前はジロー。悪の命令を出す「ギルの笛」に反応し、苦しんだり自分の意志と無関係に悪事を働かされたりしてしまいます。

物語終盤、ジローは仲間達と共にギル・ハカイダー捕らえられます。
そして悪の命令に従う服従回路(イエッサー)を組み込まれます。

良心回路を持たない仲間達はギルの僕(しもべ)になりますが、ジローは服従回路と不完全な良心回路を併せ持ったことによって人間と同じ善悪の心を持つようになります。

 そのため嘘をつくことが出来るようになり、最後の戦いでは、敵の僕に成り下がってしまった仲間たちを、次いでハカイダーを一撃で葬ります。

 戦いが終わってジローは、善と悪との心の戦いに苦しみながら一人でその場を立ち去るのです。
2485141ee0df452ec6715f74643ac4b4©石ノ森章太郎
一年生の道徳に「自然教室でのできごと」(光村図書)という教材があります。

自然教室で登山の前日に夜更かしをして体調を崩した生徒の物語を通して、中学校生活の始まりに際し,規則正しい生活の重要性について考えさせ、よりよい生活を送ろうとする実践意欲と態度を育てるのが目的です。

もしジローが完全な良心回路を持っていたら、登山の前日の夜更かしなど考えることすらできなかったでしょう。
逆に服従回路しかなかったら、迷わず夜更かしをしたことでしょう。

不完全な良心回路と服従回路を持ったジローは、夜更かししようかどうしようか、悩んだに違いありません。

「夜更かしはいけない」「規則正しい生活を送るのはいいことだ」ということがわからない中学生はいません。
しかし、中学生も含めて、「わかっちゃいるけど、やめられねぇ……」というのが人間なのではないでしょうか。

「本音と建て前は別」と割り切ってしまっては、心は成長しません。

服従回路または完璧な良心回路しか持っていないとしたら、それはロボットだと思います。
服従回路が告げる悪の誘惑があり、それに対抗する不完全な良心回路があって、その間で葛藤し続けるからこそ人間らしいのだと思います。

今年から本格的に道徳が教科として導入されました。
生徒が気づかない「徳目」を示すことは重要なことですが、「徳目」が示す行動規範に従うことを要求し、それに反することを「悪」と決めつけることは、生徒の心に服従回路を埋め込もうとする行為と大きな違いはありません。
そしてそれが「本音と建て前は別」という意識を生み、もともと生徒の心にある悪の心を増長させることにつながるのではないかと思います。

道徳の授業では、まず誰もが持っている心の葛藤を認め、その中で良心回路を強く育てていけたら、と考えています。

これは教科としての道徳ではなく、生徒指導全般にも言えることかもしれませんね。